
チーイリチャーは、沖縄県の家庭で古くから親しまれてきた郷土料理です。豚の血を使うという珍しい食材を用いた料理で、名前の「チー」は血、「イリチャー」は炒めることを意味します。つまり「血炒め」という意味で、沖縄の人々の知恵と食文化の深さを象徴する一品です。また、鉄分やたんぱく質が豊富で、疲労回復や体力維持に役立つことから、昔からスタミナ料理・滋養強壮料理としても親しまれてきました。
豚の血を新鮮なうちに固まらないように処理し、ニラや豆腐、もやし、豚の内臓などと一緒に炒めます。味付けには味噌やしょうゆ、泡盛を使うことが多く、コクのある独特の風味が特徴です。見た目はやや黒っぽく、初めて見る人には驚かれることもありますが、味わいはまろやかで深く、沖縄そばや白いご飯との相性も抜群です。
もともとチーイリチャーは、豚を一頭まるごと食べ尽くす「豚は鳴き声以外すべて食べる」といわれる沖縄の食文化の一環として生まれました。戦前・戦後を通じて、貴重な栄養源として人々の命を支え、働く人々や成長期の子どもに力をつけるスタミナ料理としても重宝されてきたのです。現在では、祝い事や法事の席などで出されることも多く、沖縄の伝統行事に欠かせない料理のひとつとなっています。
その独特な味と歴史から、観光客にも人気が高まりつつありますが、今なお地元の人々にとっては、家庭の味・心の味として受け継がれています。チーイリチャーは、沖縄の風土と人々の暮らしが生み出した、力強い郷土の味であり、栄養豊富で体を支えるスタミナ料理なのです。
チーイリチャーの歴史
チーイリチャーがいつ頃発生したかを正確に特定する史料は残っていませんが、一般的には琉球王国時代にはすでに存在していたと考えられています。
琉球王国は中国や東南アジアと交易を行っていました。中国料理や東南アジア料理では、古くから動物の血を食材として利用する文化があり、そうした影響を受けた可能性が高いといわれています。琉球は交易国家として多様な食文化を取り入れ、それを独自に発展させてきました。チーイリチャーもその一つと考えられています。
また、沖縄では豚が本格的に飼育されるようになったのは17世紀以降とされ、王府時代には「御用豚(ごようぶた)」として貴族や上級役人に献上されるほど、豚肉が重要な食材でした。このころから、豚の血や内臓まで余さず利用する文化が形成され、チーイリチャーの原型が生まれたと推測されます。
つまり、チーイリチャーは少なくとも300年以上前には存在していたとみられ、生活の知恵と交易文化の融合から生まれた、沖縄ならではの伝統料理といえます。
沖縄戦直後の混乱期には、食糧不足が深刻で、チーイリチャーは貴重なたんぱく源として再び注目されました。当時は血や内臓をできる限り無駄なく使うため、家庭ごとに工夫して調理され、味噌や塩を加えて栄養を補う「生きるための料理」でした。つまり、戦前の「祭りや法事のごちそう」から、戦後直後には日常の栄養食へと役割が変わったのです。
その後、1950〜60年代にかけて、米軍統治下でアメリカの食文化が流入し、肉の食べ方も変化します。冷蔵技術の普及や流通の発達によって、豚の血を扱う家庭が減少しました。結果として、チーイリチャーは次第に特別な行事料理や郷土料理店のメニューとして位置づけられるようになります。
さらに近年では、観光ブームとともに「伝統の味」として再評価され、栄養価の高さや独特の風味が注目されるようになりました。つまりチーイリチャーは、戦前の伝統料理 → 戦後の生存食 → 現代の文化料理へと変化を遂げた、沖縄の歴史を映す料理といえるのです。
チーイリチャーのレシピ
家庭で作りやすいチーイリチャーの基本レシピを紹介します。沖縄の家庭料理らしく、身近な材料で作れるようにアレンジしています。独特の風味を楽しみながら、栄養たっぷりの一品になります。
材料:
- 豚の血(固まらないよう処理されたもの)…200g
※手に入らない場合は豚レバーで代用可 - 豚の三枚肉(または中身=内臓)…150g
- 木綿豆腐…1丁(約300g)
- ニラ…1束
- もやし…1袋
- サラダ油…大さじ1
- 味噌…大さじ2
- 醤油…大さじ1
- 泡盛(または酒)…大さじ1
- 砂糖…小さじ1
- おろししょうが…少々
作り方:
- 豚肉は一口大に切り、下ゆでして臭みを取ります。豆腐は水切りし、軽く崩しておきます。
- フライパンに油を熱し、豚肉を炒めます。軽く焼き色がついたら、豚の血(またはレバー)を加えて炒め合わせます。
- 豆腐を加え、さらに全体を崩すように炒めながら、味噌・醤油・泡盛・砂糖・しょうがで味を調えます。
- 最後にもやしとニラを加え、サッと炒めたら完成です。
ポイント:
- 味噌は好みにより赤味噌でも麦味噌でもOK。泡盛を入れるとコクが深まります。
- 炒めすぎると血が硬くなるため、中火でやさしく炒めましょう。
- 白ご飯との相性が抜群で、沖縄そばの付け合わせにもぴったりです。




